平成28年度 社会福祉法人ヘルプ協会事業報告
介護保険法の「改正」が行われようとしています。その大きな問題点は負担増と給付削減です。一定所得(単身で年金収入が年額340万円以上))の人の利用料を2割負担から3割に引き上げます。平成27年8月に1割負担から2割に引き上げられた約45万人のうち、約12万人が対象です。また、法案は、自立支援、重度化防止にむけた市町村の取り組みを支援するため、目標の達成状況を評価し、交付金を支給するとしています。40歳以上が負担する介護保険料は健康保険料(支援金含む)と同様に、総報酬割になります。4月からすべての自治体では要支援1、2の訪問・通所介護は介護給付から外され、「総合事業」に移行します。「総合事業」では低報酬問題が、事業所を窮地に追い込み、介護難民を生み出すと懸念されています。
平成28年度は法人全体の安定した経営の基盤づくりが着実に進んだ年度になりました。新規事業は特別養護老人ホームの開設です。短期入所生活介護を特別養護老人ホームに転用するため、全室個室の改修工事を6月10日に着工し、8月1日に事業を開始、念願の特別養護老人ホーム開設を行うことが出来ました。
開設後は概ね満室に近い状況で運営が行われ、経営改善につながりました。また、小規模の地域密着型特養の特徴を活かしたケアの向上が日々取り組まれていることも特筆すべきところです。
2つ目の大きな経営改善は東野サービス付き高齢者向け住宅が満室の状態になったことです。サ高住は開設当初の方針を変えて、どんな状態になってもご本人が望まれれば利用し続けられるサービスの提供を行うことを目標に取り組みを行いました。また、居宅介護支援事業所や医療機関等への営業の強化を行った結果、平成29年3月に初めて満室になりました。死去等による退所はあるものの引き続き入居・予約される方も続いています。
また、他の事業においても経営の安定のための懸命の取組みが行われ、下半期では黒字化の目途が立ってきました。
のっくおんの虐待は運営に深刻な影響をもたらしました。ご利用者とご家族の皆様には多大なご迷惑をおかけしています。法人全体では人権と虐待についての教育・研修を重点的に取り組みました。また、のっくおんにおいても教育の取組みを強めました。ひきつづき、法人理念の「協同と信頼を基盤に人間の尊厳と人権を守る」取り組みの具現化に努めます。
1.理念・方針の堅持
理念・方針の堅持 | 平成27年度はのっくおんで虐待があったことからも法人研修会の多くを人権と言葉づかい・マナーにして取り組みました。 ・5月12日、「虐待について」 山崎玲輔氏 NPO法人兵庫セルプセンター理事長 ・7月27日、「人権研修 change chance challenge」 岡村ヒロ子氏 元大阪人間科学大学准教授 ・9月16日、「人とかかわる仕事において大切な事・ストレス チェック」 宮本真理子氏 社会保険労務士 ・11月22日、「言葉遣いとマナー今井由美子氏 協立温泉病院 作業療法科 科長 ・1月27日 「人間の尊厳中野加奈子氏 大谷大学社会学部専任講師(現在、准教授) ヘルプ協会評議員 ・3月27日 「労働者協同組合杉本貴志氏 関西大学教授、ヘルプ協会理事・評議員 |
2.利用者、家族の思いを尊重したサービスの実施
職員一人ひとりが高い技術と知識を習得し、安心・安全のサービス提供に努めます。 | ・教育研修は内部研修、外部研修を含めて(各事業所総括に添付)積極的に取り組みました。また、法人全体ではセレクト研修と医療と介護・認知症の研修会をそれぞれ隔月に開催しています。また、研修委員会では職員向けに研修委員が作成した広報誌も発行しました。 |
利用者の現状を把握しながら情報共有、評価を行い、より良い支援やサービス提供につなげます。 | ・サ高住、ショートステイは改善会議で、訪問介護、デイサービスでは合同の会議を開催し、より良い支援、サービスの提供に努めてきました。デイサービスではアクティビティの共有化を、ショートステイは地域密着型特養への転用の準備、訪問介護では新年度に向けた見直しやサ高住では41室満室に向けた取り組みの話し合いなどを行いました。 |
・緊急時対応や危機管理、ヒヤリハットの分析と対策 | ・事故とヒヤリハット、身体拘束・虐待、感染症対策、苦情の委員会を立ち上げて定例の会議を開催してきました。 ・身体拘束については、特別養護老人ホームの4点柵を中心に議論を重ね改善に努めました。 ・事故とヒヤリハットは毎月、事故・ヒヤリハット委員会で分析と対策を行いました。 ・感染症は特養ホームで疥癬が1名、インフルエンザも数名の方が発症しましたが、どちらも深刻な事態にはなりませんでした。 ・虐待委員会ではのっくおんのセクシャルハラスメントの虐待について議論し、深めました。 |
3.安定した経営基盤の確保
・全職員に経営方針を周知し、共有することを基本姿勢とします | ・各事業所の会議やヘルプ協会便りで経営方針の周知に努めてきました。 |
・全事業所でサービスの見直し、改善を行い6億円以上の収入を目指します | ・全事業所でサービスの見直しや改善に取り組んだ年度です。3月には法人の月間収入が初めて5100万円台になりました。しかし、サービスの見直しに時間を費やしたことなどもあって、年間では6億円の収入の目標に届きませんでした。 |
・ぐろ~りあ特別養護老人ホームの開設 | ・ショートステイ20室の地域密着型特別養護老人ホームへの移行は平成28年2月に伊丹市から許可が下りて、7月半ばに全室個室の改修工事を完了しました。 平均介護度は当初予測の3.8を上回って4.1で重度化の傾向が見られます。 ・ケアの面では週3回の入浴やおむつをはじめとした排せつの見直し、ベッドの4点柵による身体拘束廃止の取り組みなど改善が進みました。 |
・ショートステイは20室の地域密着型特別養護老人ホームへの転用を目指します | ・ショートステイは4室になって満室に近い利用状況が続いています。一方では利用の希望にこたえきれず、障害のある方の利用についてもご不便をおかけしています。 |
・東野サ高住は上半期に41室、100%の入居者を目指します | ・居宅介護支援事業所等への営業を強めるとともに、紹介業者の利用も行って、平成28年4月の入居者数32人から、平成29年3月末で初めて41室満室になるなど、深刻な経営状況の改善に努めてきました。 一方では入居者が増える事によって、医療依存度の高い方も増えてきました。入居者一人ひとりの情報の共有で課題が残りました。訪問介護とは連携を密にとり情報を互いに発信していくように努めました。 |
・訪問介護は24時間のサービス提供を始め、サ高住では援助の中心的な担い手としてサテライト事業所を立ち上げます | ・三事業所役職者会議では、経営改善の取り組みや総合事業の準備を行いました。経営改善の取り組みではサービス費用等の見直しを行い、私的利用の価格やサービスとサービスの間の待機時間の費用の見直しなどを行い、新年度から改定することにしました。 |
・ぐろ~りあ東野は、4月ぐろ~りあ東野サービス付き高齢者向け住宅で訪問介護事業所を立ち上げ、サ高住内の中心的なサービスの担い手になっています。 ・ぐろ~りあ訪問介護事業所は、より良いサービス提供のために利用者宅の訪問によるモニタリングを強化し、居宅介護支援事業所、相談支援事業所と課題等の情報の共有を行い改善に努めました。またヘルパー間の情報の共有に努めサービスの向上を図りました。・ぶる~む訪問介護事業所は、チーム力の強化で多様なニーズに臨機応変な対応をすることを意識して取り組みました。居宅介護支援事業所、地域包括支援センターをはじめ、他職種、他事業所との関わりを大事にして連携を図りました。さらに新規利用依頼は断らない事を第一とし、利用者増に継続的に取り組みました。 |
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・通所介護 | ・ぐろ~りあ通所介護は、地域の居宅介護支援事業所への訪問を強化したことなどで平均稼働率が80%台になるなど、着実な利用者増になっています。また、今期からは地域支援事業をデイサービスの事業として引き継ぎ、利用者も増やして取り組むことが出来ました。 ・ぶる~む通所介護は訪問看護との連携を行い、定員を10人から15人に増やしています。今後の利用者増が期待できます。 ・タカさん家は、建物の集中減算が響いています。外部への営業も強化して取り組んでいます。 |
・相談支援事業所 | ・開設3年目になりました。稼働件数は80件を超えています。取り組みでは利用者の意向と自己決定を念頭に置き、希望に可能な限り添えるようサービス調整を行いました。緊急性がある場合は即時プラン変更を行い、就労支援では時間をかけて対応しました。 |
・地域包括支援センター | ・総合相談業務や高齢者の権利擁護相談、介護予防ケアマネジメント、地域住民の介護予防健康増進の活動等は地域に定着してきました。総合事業については、ぐろ~りあで「新しい総合事業検討会」を6回開催し、他部門との情報共有を行ってきました。 地域包括支援センターの役割の一つである地域のネットワークづくりについては、社会福祉士が定着せず不十分な状況が続きました。 |
・ホーム友紀 | ・1名が退去し、利用者は定員6名に対し4名になっています。日中支援事業利用者は2名が利用されています。年度末近くになってサービス管理者と世話人が共に病気療養することになって新たな体制での再スタートになりました。利用者に迷惑が及ばないように丁寧な対応を行うとともに、面談や新たな信頼関係づくりに努めました。 経営的には引き続き困難な事業ですが、グループホームの展望とともに今後のあり方の具体化は検討課題になりました。 |
・のっくおん | ・平成28年1月の虐待に続いて、6月には新人職員がコンビニエンスストアでいかがわしい本の購入を利用者に依頼するセクシャルハラスメントの虐待が起こりました。利用者ご本人、ご家族に謝罪するとともに、虐待の本人には個別の教育も行い、改善に努めました。 ・職員教育は、毎週のミーティングで短時間学習を行いました。また、サービス管理者の資格取得の研修中にはのっくおん独自の学習会もシリーズで開催し、研修内容が深まるように取り組みました。法人の全体研修には全職員が参加するように取り組みを行いました。 ・運営にあたっては職員の労働条件の改善に努めました。希望するパート職員には社会保険の適用を行うとともに、利用者と職員が離れて休憩時間が取れるように業務のあり方そのものの見直しも行いました。しかし、職員の労働条件を改善するために事業の集約をせざるを得なくなって、事業によっては規模が縮小し、ご利用者、ご家族に迷惑をかけることになってしまいました。 |
・事務センター | ・事務主任の退職もあり、9月から新体制で日常業務の効率化、見直しを進め、事務センターの業務改善が行われています。 |
4.中・長期的な展望に立った取り組み
・地域密着型特別養護老人ホームの開設 | ・地域密着型特別養護老人ホームの開設に向けては準備とそのための改修工事を行い、8月1日に開設しました。 特別養護老人ホームの開設では、ショートステイの不安定で赤字の状況を大幅に改善することができて、法人全体の経営改善につながりました。 |
・第2のっくおんとグループホーム開設について | ・新たに始めた農業は、専門家の育成も含めて課題を残しています。 ・農業を中心とした第2のっくおんの開設はのっくおんで虐待があったことから頓挫しています。 ・グループホームの建設は引き続き検討課題になりました。 |
5.教育・研修の強化
・教育は、法人理念の「人間の尊厳と人権を守るケア」の徹底を図ることを基本的課題として取り組みました。
・管理職研修 中堅層職員の教育研修体制の強化 |
・管理職研修は、リスクマネジメントの研修を協同の苑、ジェイエイ兵庫六甲福祉会の三法人合同で開催し、学習と交流が深まりました。 ・法人内部の研修は、人権についての教育をセレクト研修においても取り組み、初任者向けには「介護・認知症と医療の研修」を継続して行いました。 |
・資格取得の研修 外部研修 |
・資格取得の支援は協同の苑、ジェイエイ兵庫六甲福祉会の三法人連携による初任者研修講座が行われました。今年度は協同の苑が担当で開催されました。ヘルプ協会では採用にも繋がりました。 ・外部研修は目的と目標を明らかにして積極的に取り組みました。 |
6.地域福祉に寄与する
・地域との連携 | ・・地域との連携は引き続き、北園地区をはじめ地域包括支援センターの担当地区、緑丘・瑞穂で連携した取り組みを強めています。 |
・三法人の取り組み強化 | ・協同の苑、ジェイエイ兵庫六甲福祉会との三法人連携が進みました。互いの事業所「監査」は引き続き事業の改善につながっています。また職員研修においても大切な役割を果たしています。さらに三法人主催の初任者研修の開催や伊丹市が取り組む生活困窮の取組み、三法人責任者会議の取組み等が行われました。 |
・社会貢献事業 | ・伊丹市の生活困窮者自立相談支援事業及び職場適応訓練推進事業に協力して取り組みを強めています。 ・伊丹市が開催する「父がつながり集まる子育てひろば“ととりば”」については利用者が着実に増えて、利用者同士の交流も深まっています。運営の位置づけについてはぶる~むから法人の取り組みに変更しました。 |
7.職員の採用
職員の採用 | ・職員採用は引き続き困難な状況ですが、初任者研修修了者が採用に結びついています。また、伊丹市が開催した生活援助ヘルパーの研修でも採用につながっています。 |